共同住宅の設計において、容積率の管理は計画の規模を左右する非常に重要な要素です。限られた敷地の中で有効な住戸床面積を最大化するため、共用廊下や階段の不算入規定(建築基準法第52条第6項)を適用することは実務において一般的なアプローチとなっています。
しかし、近年の多様なライフスタイルに合わせ、マンションの共用部に「集会室」だけでなく「コワーキングスペース(在宅ワークスペース)」などを設けるケースが増えています。これらは同じ共用スペースとして、不算入の対象に含まれるのでしょうか?
今回は、判断の決定的な根拠となる行政通知の原文を交えながら、これらの諸室の正確な取り扱いと、実務で役立つ共同住宅の「算入・不算入項目一覧」を整理します。
1. 根拠となる行政通知:建設省住街発第73号
結論から申し上げますと、共同住宅の「集会室」および「コワーキングスペース」は、原則としてすべて容積率計算の対象(算入)となります。
その明確な根拠となるのが、平成9年に出された通達「建設省住街発第73号」です。この通知の第2項(1)には、容積率不算入の対象となる「共用の廊下等」の範囲が次のように厳格に定義されています。
通達の原文
「共用の廊下の用に供する部分には、いわゆるエントランスホール及びエレベーターホールで共用のものを含むものであり、収納スペース、ロビーとして区画された部分等の居住、執務、作業、集会、娯楽又は物品の保管若しくは格納その他の屋内的用途に供する部分を含まないものであること。」
この一文を設計実務の視点で「含まれるもの(不算入)」と「含まれないもの(算入)」に分解すると、以下のようになります。
〇 廊下部分に含まれるもの(容積率:不算入)
- 共用の廊下・階段
- 共用のエントランスホール(※単なる「通路」としての空間)
- 共用のエレベーターホール
× 廊下部分に含まれないもの(容積率:算入)
- 集会室・集会スペース(通達の「集会」に該当)
- コワーキングスペース・ワークブース(通達の「執務・作業」に該当)
- 管理事務室・管理人室(通達の「執務・作業」に該当)
- ラウンジ・独立したロビー(通達の「ロビーとして区画された部分・娯楽」に該当)
- 共用物置・トランクルーム(通達の「収納スペース・物品の保管若しくは格納」に該当)
単に通路として通り抜けるだけの空間(エントランスホール等)は廊下の一部として認められますが、壁やパーテーションで区画され、そこで「人が滞在する」「作業をする」「物を保管する」といった具体的な目的(用途)を持つ空間になった時点で、それは「廊下ではなく『室』である」とみなされ、容積率の算入対象となります。
2. 共同住宅の容積対象面積 算入・不算入一覧表
基本設計の初期段階でボリュームチェックを確実に行うため、共同住宅でよく登場する諸室・設備の算入・不算入の扱いを一覧表にまとめました。
| 部分・室名 | 容積対象面積への扱い | 根拠・備考(適用される条件など) |
| 共用廊下 | 不算入(入らない) | 建築基準法第52条第6項。 (※専ら共同住宅の用に供するものに限る) |
| 共用階段 | 不算入(入らない) | 同上。(※傾斜路も含む) |
| エレベーターの昇降路 | 不算入(入らない) | 建築基準法第52条第6項。 (※共同住宅に限らず全建築物で対象) |
| 集会室 | 算入(入る) | 建設省住街発第73号。 共用廊下等の不算入措置からは除外される。 |
| コワーキングスペース (在宅ワークスペース) | 算入 (入る) | 建設省住街発第73号。 「執務」や「作業」の用に供する空間(屋内的用途)に該当するため、不算入にはできない。 |
| エントランスのロビー等 | 算入(入る) | 建設省住街発第73号。 区画された居住、執務、娯楽等のための空間は算入される。 |
| 管理事務室(管理人室) | 算入(入る) | 執務や作業のための屋内的用途に該当するため算入対象となる。 |
| 自動車車庫・駐輪場 | 不算入(入らない) | 建築基準法施行令第2条第1項第4号。 (※敷地内の建築物の延べ面積の1/5が上限) |
| 宅配ボックスの設置部分 | 不算入(入らない) | 建築基準法施行令第2条第1項第4号。 (※敷地内の建築物の延べ面積の1/100が上限) |
| 備蓄倉庫 | 不算入(入らない) | 建築基準法施行令第2条第1項第4号。 災害対策用。(※延べ面積の1/50が上限) |
| 蓄電池の設置部分 | 不算入(入らない) | 建築基準法施行令第2条第1項第4号。 (※延べ面積の1/50が上限) |
| 自家発電設備の設置部分 | 不算入(入らない) | 建築基準法施行令第2条第1項第4号。 (※延べ面積の1/100が上限) |
| 貯水槽の設置部分 | 不算入(入らない) | 建築基準法施行令第2条第1項第4号。 (※延べ面積の1/100が上限) |
| 地下室(住宅の用途) | 不算入(入らない) | 建築基準法第52条第3項。 地階の住宅部分。(※住宅用途の延べ面積の1/3が上限) |
3. 実務における設計上のポイント
容積率を消費するスペースとしての認識
近年、新築分譲・賃貸マンションの付加価値として「コワーキングスペース」や「個室のワークブース」を設ける設計プランが非常に増えています。しかし、これらは集会室と同様に「容積率を消費する(=その分、住戸床面積を削る必要がある)スペース」となります。全体のボリュームを検討する初期段階から、しっかりと算入して計算しておく必要があります。
緩和規定の種類(上限の有無)を区別する
一覧表の通り、共用廊下・階段・エレベーター昇降路は、共同住宅等の要件を満たしていれば面積の上限なく不算入となります。一方で、駐車場(1/5)や宅配ボックス(1/100)などの諸設備には「延べ面積に対する一定割合」という上限が設定されています。計画時にはこれらを明確に区別して面積を算出する必要があります。
4. まとめ:一次情報に基づいた確実な計画
建築基準法や関連する施行令だけでなく、今回のように局長通知などの「通達」にまで目を通しておくことで、設計の初期段階から手戻りのない確実性の高い計画を組み立てることができます。
「集会室やコワーキングスペースは容積対象面積に含まれる」という原則を正しく把握し、スムーズな確認申請と施主への的確な提案につなげていきましょう。

