はじめに
共同住宅の設計では、
• 自動火災報知設備
• スプリンクラー設備
• 屋内消火栓設備
• 連結送水管
など、多くの消防用設備が計画に影響します。
これらは単に設備コストの問題ではなく、
• パイプスペースの確保
• 天井高さへの影響
• 点検・更新を見据えたメンテナンス性
といった、建築計画そのものに大きく関わります。
そこで重要になるのが、平成17年総務省令第40号に基づく「特定共同住宅等」の制度、いわゆる「40号特例」です。
一般には「消防設備の緩和制度」として知られていますが、実際にはそれだけではありません。
40号特例の本質は、
建物自体に高い防火安全性能を持たせることで、必要な消防安全性能を建築計画側で確保し、その前提で消防設備を合理化する制度
にあります。
つまり、40号特例を活用したい場合は、設備の話から入るのではなく、まず建築計画として成立するかどうかを整理することが重要です。
40号特例の構造特性は「避難経路」と「開放性」で決まる
40号特例における特定共同住宅等の構造特性は、主に次の2つの視点で整理されます。
• 避難経路がどのように確保されているか
• 廊下や階段がどの程度外気に開放されているか
この2つの条件によって、建物は4つの構造類型に分類されます。
そして、この類型が建物の防火安全性能を評価する基準となり、設置すべき消防用設備や、適用できる合理化措置の内容に大きく関わります。
4つの構造類型とその特性
1. 二方向避難型特定共同住宅等
二方向避難型特定共同住宅等は、すべての住戸等から、2以上の異なる避難経路を利用して、地上または避難階まで安全に避難できる構造です。
ここでいう避難経路には、階段だけでなく、避難上有効なバルコニーを含む場合があります。
たとえば、
• 両端階段型の片廊下住棟
• 避難上有効なバルコニーを持つ共同住宅
などが代表例です。
廊下型の建物では、
• 階段室等が廊下の端部にあること
• 住戸の出入口と避難経路の関係が適切であること
• バルコニー避難が有効に成立していること
などが重要になります。
単に「階段が2つある」だけでは足りず、各住戸から実際に2方向へ避難できるかを確認することが必要です。
2. 開放型特定共同住宅等
開放型特定共同住宅等は、すべての住戸等の主たる出入口が、開放型廊下または開放型階段に面しており、火災時に発生する煙を有効に排出できる構造です。
代表的には、
• 外廊下型マンション
• 開放階段型共同住宅
などがイメージしやすいですが、外廊下であれば自動的に開放型になるわけではありません。
開放型として成立するには、たとえば次のような条件を満たす必要があります。
• 各階の廊下の外気に面する面積が、その階の廊下の見付面積(端部を除く)の3分の1を超えていること
• 垂れ壁の下端から天井までが30cm以下であること
• 手すり上端から垂れ壁下端までに1m以上の開口高さがあること
• すべての階の廊下や階段室等が、隣地境界線または他の建物の外壁から1m以上離れていること
• 特定の光庭に面していないこと
つまり、開放型の成立には、平面計画だけでなく、立面・断面・配置計画まで含めた確認が必要です。
3. 二方向避難・開放型特定共同住宅等
二方向避難・開放型特定共同住宅等は、二方向避難型と開放型の両方の要件を満たす構造です。
4つの類型の中では、最も防火安全性能が高いと評価されやすく、消防用設備の合理化措置も最も有利になりやすい類型です。
分譲マンションなどで採用されることが多く、設計上も40号特例を積極的に活用しやすい形式といえます。
4. その他の特定共同住宅等
その他の特定共同住宅等は、上記3つの類型のいずれにも該当しないものです。
たとえば、
• 内廊下型共同住宅
• 一方向避難となる共同住宅
などが該当しやすい類型です。
この類型でも特定共同住宅等として成立することはありますが、他の類型に比べると、消防設備の合理化措置は限定的になりやすいため、計画初期の見極めが重要です。
類型を問わず必要になる「基本構造」の要件
4つの構造類型は重要ですが、それ以前に、特定共同住宅等として成立するためには、類型を問わず満たすべき基本的な建築要件があります。
1. 主要構造部は耐火構造であること
まず前提として、建物の主要構造部は耐火構造であることが求められます。
40号特例は、建物自体の防火性能を高めることを前提とした制度であるため、この点は基本条件になります。
2. 共用部分の内装は準不燃材料とすること
共用部分の壁および天井の仕上げは、原則として準不燃材料で行う必要があります。
ここでいう共用部分には、開放廊下なども含まれます。
3. 住戸等を共住区画で区画すること
住戸等は、原則として開口部のない耐火構造の床または壁で区画されている必要があります。
これが、いわゆる共住区画です。
共住区画は、住戸間の延焼を防ぐうえで最も重要な考え方のひとつであり、実務では次のような部分の納まり確認が重要になります。
• 界壁
• 界床
• EPS・PSまわり
• メーターボックスまわり
• 住戸玄関まわり
4. 外壁開口部には延焼防止措置が必要
住戸等の外壁にある開口部については、隣接する住戸の開口部との間で延焼を防止する措置が必要です。
たとえば、
• 0.5m以上突出したひさし
• 0.5m以上突出した床
• 0.5m以上突出したそで壁
などによって、有効に遮ることが求められます。
また、条件によっては、開口部相互の距離が0.9m以上ある場合に別の扱いとなることもあります。
このため、バルコニーの隔て板だけで判断するのではなく、
• サッシ位置
• 袖壁寸法
• 庇の出
• 上下階の開口位置関係
まで含めて、立面・断面で確認することが重要です。
実務で特に注意したい「開口部面積制限」
40号特例では、住戸と共用部分の間に設ける開口部について、構造類型によって面積制限の考え方が異なる点にも注意が必要です。
特に、開放型特定共同住宅等および二方向避難・開放型特定共同住宅等以外の住戸等で、共同住宅用スプリンクラー設備を設けない場合には、住戸と共用部分の間の開口部に次のような制限があります。
• 1住戸等あたりの開口部合計:4㎡以下
• 1開口部あたり:2㎡以下
• 共用室の開口部合計:8㎡以下
このため、
• 開放型・二方向避難開放型は比較的計画しやすい
• 二方向避難型・その他型では、住戸玄関まわりの開口計画が厳しくなりやすい
という違いがあります。
設計上は、玄関扉だけでなく、
• 廊下側の窓
• 換気用開口
• 共用室の出入口
• 共用廊下に面するガラス開口
なども含めて、早い段階で面積を整理しておくことが重要です。
見落としやすいのが「区画貫通部」の処理
共住区画は、壁や床をつくれば終わりではありません。
給排水管や電線管、ダクトなどが区画を貫通する場合でも、必要な耐火性能を維持する必要があります。
特に注意したいのは、
• 給排水管
• 電線管
• ダクト
• 通信配線
• PS・EPS内の納まり
です。
この部分は建築と設備の取り合いで見落とされやすく、消防協議でも重要な確認項目になります。
40号特例では、区画は貫通部を含めて一体で成立させるという意識が欠かせません。
40号特例は「どの類型で成立させるか」を先に決めることが重要
40号特例を活用する場合、確認申請の直前で検討するのでは遅く、基本計画段階でどの構造類型で成立させるかを決めておくことが重要です。
特に初期段階で整理しておきたいのは、次のような点です。
• 共住区画が成立するか
• 二方向避難が全住戸で成立するか
• 開放型として成立するか
• 特定光庭に該当しないか
• 住戸と共用部分の間の開口部面積制限に抵触しないか
• 外壁開口部の延焼防止措置が成立するか
• 貫通部処理に無理がないか
これらは、後から修正すると平面計画・断面計画・設備計画に大きな手戻りを生む部分ばかりです。
まとめ
40号特例は、単なる消防設備の緩和制度ではありません。
その本質は、建築計画によって必要な防火安全性能を確保し、その前提で消防設備を合理化する制度にあります。
特定共同住宅等の構造特性は、
• 避難経路の確保状況
• 廊下・階段等の開放性
によって整理され、建物は
• 二方向避難型
• 開放型
• 二方向避難・開放型
• その他
の4つの構造類型に分類されます。
さらに、類型にかかわらず、
• 主要構造部の耐火構造
• 共用部分の準不燃仕上げ
• 共住区画の成立
• 外壁開口部の延焼防止措置
• 区画貫通部の適切な処理
といった基本要件を満たす必要があります。
共同住宅設計者として重要なのは、消防設備の検討に入る前に、
「この建物をどの構造類型で成立させるのか」
を明確にし、そのうえで玄関まわり、バルコニーまわり、PS・EPS、避難動線まで一体で整理することです。
それが、40号特例を実務で使いこなすための第一歩になります。

