【共同住宅】「直通階段・避難階段・2方向避難」の基本と実務

共同住宅の設計


マンションを設計する際、いざというときに居住者が安全に逃げられる経路をどう確保するかは、設計者の腕の見せ所です。

しかし、建築基準法の避難規定は複数の条文が複雑に絡み合っており、実務において思い込みや誤解が生じやすい部分でもあります。

今回は、共同住宅(マンション)の設計に特化し、基本となる「直通階段」から「避難階段」、そして「2以上の直通階段」の設置基準と緩和規定について、実務者が絶対に押さえるべきポイントを整理します。


1. すべての避難の土台となる「直通階段」

避難計画を立てる上で、すべての基本となるのが「直通階段」です。

直通階段とは、居室のある階から、地上へ直接通じる出口がある階(避難階)まで、途切れることなく連続してつながっている階段のことです。

火災が発生した際、居住者が迷うことなく最短経路で地上まで自力で避難できるよう、日常の動線と兼ねて分かりやすい位置に配置することがプランニングの基本となります。


2. 煙から命を守る「避難階段」の設置義務と構造

建物の階数が高くなると、通常の直通階段だけでは避難中の安全を確保しきれなくなるため、煙や熱から完全に隔離された「避難階段」の設置が義務付けられます。

避難階段が必要になる規模

共同住宅の場合、原則として「5階以上の階」または「地下2階以下の階」に居室がある場合、その直通階段を「避難階段(屋内または屋外)」としなければなりません。

※なお、超高層マンションなどで求められる「特別避難階段」は、一般的な共同住宅では面積のロスや設備コストが過大になるため、実務上は使わない設計(避難階段の範囲で収める計画)が標準となります。

共同住宅と相性の良い「屋外避難階段」

マンションで特によく採用されるのが「屋外避難階段」です。階段自体が外気に開放されているため煙が滞留しにくく、屋内の前室(附室)が不要になるため面積効率が非常に高いというメリットがあります。

ただし、以下の厳格な構造基準(令123条2項)をすべて満たす必要があります。

  • 2mの離隔距離(2mルール):階段から2m以内の距離には、原則として窓などの開口部を設けないこと(※開口面積が1㎡以内の防火設備で「はめごろし戸」とする場合は除かれます)。
  • 出入口の防火設備:階段へ通じる扉は、遮煙性能を持つ常時閉鎖式、または煙感知器連動の自動閉鎖式の防火設備とすること。
  • 耐火構造:階段自体を耐火構造とし、避難階まで直通させること。

設計時は、この2mルールを意識しながら、外壁の形状や住戸の窓配置を工夫し、安全性と住環境のバランスを取ることが求められます。

💡 避難階段を「免除」できるカード

条件を満たすことで、5階以上であっても避難階段への格上げを免除できる規定があります。

共同住宅において極めて重要なのが「200㎡以内の区画による緩和」です。

【避難階段の設置免除条件】

主要構造部が耐火構造の建物で、床面積200㎡以内ごと(共同住宅の住戸の場合。一般居室は100㎡)に、耐火構造の床・壁・特定防火設備(遮炎性能1時間以上)で細かく区画されている場合。

住戸そのものが強固な防火区画として機能しやすい共同住宅ならではの特例であり、コストやスペースの配分を最適化するために初期段階で必ず確認したいポイントです。


3. 「2以上の直通階段」が必要になる原則的な条件

建物の規模がさらに大きくなると、1つの階段が煙で使えなくなった場合に備えて、もう1つの逃げ道を確保する「2以上の直通階段(2方向避難)」が必要になります。

共同住宅において、原則として階段を2つ以上設置しなければならない条件は以下の通りです。

① 階数による条件(原則)

  • 6階以上の階に居室を有する建築物。

② 面積による条件(避難階以外の階)

  • 主要構造部が耐火構造の場合:居室(宿泊室、寝室等)の床面積の合計が100㎡を超える階。
  • 主要構造部が準耐火構造または不燃材料の場合:居室の床面積の合計が200㎡を超える階。

※ここでカウントするのは、廊下や階段、便所などを除いた「居室のみの面積」である点に注意してください。


4. 「2以上の直通階段」を1箇所に集約する緩和規定

本来、上記の条件に該当すれば階段は2つ必要ですが、共同住宅には以下の3つの条件をすべてクリアすることで、直通階段を1箇所(単一階段)にできる強力な緩和規定があります。

1.面積の制限:各階の居室面積が200㎡以下。

主要構造部が準耐火構造または不燃材料の場合、各階の居室(寝室・リビング等)の床面積の合計を200㎡以下に抑えること。

2.代替ルートの確保:避難上有効なバルコニーの設置。

階段が使えない場合に備え、住戸のバルコニーから隣戸へ移動できる隔板(避難ボード)や、下階へ降りられる避難ハッチ(避難器具)を適切に設けること。

3.階段自体の安全化:屋外避難階段(または特別避難階段)の設置。

唯一の出口となる階段が煙に巻かれないよう、外気に開放された「屋外避難階段」等にすること。

この緩和を適用することで、ワンフロアの規模が小さい中高層マンションにおいて、無駄な共用階段を省き、その分のスペースを専有面積やバルコニーの広さへと還元することが可能になります。


⚠️ 実務者がやってしまいがちな「2つの致命的ミス」

この「2以上の直通階段」の緩和を検討する際、設計者が最も陥りやすい落とし穴が2点あります。ここを間違えると、確認申請の段階でプランが根本から崩壊するため、絶対に覚えておいてください。

ミス①:「屋内避難階段」では緩和を受けられない

同じ避難階段でも、「屋内避難階段」ではこの緩和の要件を満たしません。

要求されているのは、あくまで煙の滞留リスクが極めて低い「屋外避難階段」(または特別避難階段)です。「附室(前室)を付けた屋内避難階段だから大丈夫だろう」という思い込みは禁物です。

ミス②:法規の「良いとこ取り」はできない

前述の通り、建築基準法施行令第122条などの規定を使えば、「小規模だから避難階段にしなくて良い」という免除を受けられるケースがあります。

しかし、「2以上の直通階段の緩和(階段を1つに減らす)」を受けるのであれば、その唯一の階段は「絶対に避難階段(屋外)」に格上げしなければなりません。

「避難階段にしなくていい緩和」と「階段を1つに減らせる緩和」を都合よく組み合わせて、『避難階段ではない、普通の直通階段を1つだけ設置する』ということは絶対に認められない(良いとこ取りはできない)というルールを肝に銘じておきましょう。

補足:5階以下における「壁」

また、この「2以上の直通階段を1つに減らす緩和」の多くは条文上「6階以上の階」を対象としています。そのため、5階以下の階で面積要件等により2つの階段が必要になってしまった場合、原則としてこの緩和を適用して1つに集約することはできません。5階以下で義務が発生した場合は、基本に立ち返って最初から2経路を確保するか、居室面積を基準値以下に抑えるボリュームコントロールが必要です。


まとめ:安全への誠実さがプランの質を決める

法規の緩和規定を組み合わせることは、単なる面積効率の追求ではありません。それは、「火災時に居住者が本当に逃げられるか」という避難のリアリティを、建築計画の中にどう落とし込むかという設計者の配慮そのものです。

「屋外避難階段でなければならない理由」や「良いとこ取りはできない」という法の意図を正しく理解し、安全性と心地よい住環境が調和したマンション設計を目指していきましょう。